叱られるということ

齢をとるにつれて叱ってくれる人がいなくなるというのは本当のことだ。このことについて俳優で文学座代表の加藤 武氏が貴重な経験を日本経済新聞の3月15日の文化欄に書いている。かつて文学座の看板女優だった杉村春子さんが元気な頃、加藤さんは杉村さんから、ことあるごとに厳しく叱られたとのことだ。杉本さんが亡くなった後、加藤さんには叱ってくれる人がいなくなった。「そんなある日、憧れていた文楽の竹本住太夫の浄瑠璃を聞いていた時、ふと、私は耳をそばだてた。・・・あれ?住太夫が私を叱っている!」と。

住太夫が杉村春子さんのように面と向って加藤さんを叱っている、という訳ではない。ここで加藤さんが住太夫の芸(人物が生きている。情が切々と伝わってくる。場面が手に取るように見えてくる)に感動した、と言わずに「叱っている」と受け取ったところが興味深い。・・・いや今度は私自身がこの文章を通じて「加藤さんに叱られている」という感覚を持った。これからの人生、間違いなく生きていくためには、人から、物から、自然から叱られなくてはならないと思う。齢を取れば取る程このような感覚がますます必要になっていくのではないだろうか。