第7話 メインの仕入れ先への説明

 

 

F部長にK次長が同席。打ち合わせ通りメモに書いた内容を話した。K次長は不快感を顔に出していた。F部長はやはり予想していた通りの言葉を口にした。

「K商事の特約店としてもっと早く相談してほしかった。何かできたかもしれない。いやー残念ですな。ところで今後どうする積もりですか」

上司のT本部長のところに案内され、本部長応接室で報告、説明した。本部長は穏やかに受けとめてくれた。以下箇条書きで。

  • 賢明な判断だと思う。2,3の特約店からも相談を受けている。家賃収入があるが、本業の赤字でそれを食ってしまっている、どうしたらいいか。
  • 大手の業者も大変なことになっている。
  • 建築はここ2年は仕事があるが、その後は奈落。
  • とにかく利幅が小さくなってきている。皆やっていけなくなってきている。
  • ゼネコンの倒産が始まる。債権放棄を受けたところも良くなっていない。

私の方からは「商権をK商事さんと一緒に作ってきたという思いあります。商権を守るためにK商事さんと今後詰めた打ち合わせをさせて頂きたい」と申し出た。これに対し、社内で早速チームをつくり、体制を整える。社長にも報告する、とのことだった。また当方からのお願い事項を伝えた。

  • A銀行が純資産調査書についての検討を始めたところなので、コンタクトするのはちょっと待ってほしい。
  • 9月、10月は手形の決済は手持現金と入手予定の手形を割り引いたりして行えるので問題はない。それ以降は資産売却の代金で決済していく。
  • A銀行の下でD地所が不動産の売却を担当する。契約が出来た時は、担保解除の手続きをお願いしたい
  • 黒字の部門は仙台支店と千葉支店の2つ。人件費を抑えているので何とか黒字になっている
  • リストラして縮小均衡でこの時期を乗り切るという考えもあったが、顧問税理士、顧問弁護士のアドバイス、社内の意見などを考慮し、決断した。
  • 解散の件は銀行関係ではA銀行のみ、取引先ではK商事さんだけ。9月1日現在社員にもまだ話していない。

これを受けてK商事、関連会社は当社に対する契約残、見積中の案件のリストアップに入ることになった。

帰社後、午後1時分。株主の1人の方から電話が入り、「投資額は保証されるのか」との質問。「保証されます」と答える。「それでは委任状を出します」

午後2時に監査役の叔父に電話して解散の件を伝える。実家の母にも叔父さんに電話したことを伝える。母からは「回収面に万全を尽くすように」とのアドバイスがあった。A銀行の京橋支店にK商事との会議内容をFAXで報告した。

こんな状況だが、自分の姿勢が崩れないように、逃げる気持ちを起こさないように、毅然としていること、感謝の気持ちを持ち続けることを自分に強く言い聞かせた。

 

9月3日、日曜日。

実家で兄弟に集まってもらう。長女M子の段取りでM子の夫K氏、次女のS子、

夫のT氏、それに母、解散に到る迄の経緯を報告した。結局3時半に始めて終わったのが9時。K氏より「お兄さんの話を聞いて感じたのは『人がいい。人間は100%利害関係で動いている。人を動かすのはすべてカネ。自主廃業するには厳しさが必要。人に迷惑をかけない、というのはいいことだと思うが、銀行の手にかかるといいようにされてしまう。裏目になる。かえってゴタゴタしてしまう。社員に対しても厳しくやる必要がある。モラルダウンは避けられないので、ルールをしっかりつくり、目標設定を上手にやること。しかしすべては確約しない。また将来に対する希望も必要。こういう時期は権限を集中して、すべて掌握することが肝心』

T氏からは「銀行はシビア。株の担保も取られてしまうだろう。また2枚舌。支店長がOKしても、本店がどういうか。債務超過になる可能性は90%ある。今後銀行からいろいろ厳しい要求を突き付けられることになるだろう」

2人とも「お兄さんは人がいい。甘い」。いずれも貴重な意見と受け止めた。6時間にわたって良く付き合ってくれた。

帰宅後、家内に報告。「人がいい、というのはお父さんの人柄。人にはそれぞれ持ち味があるのよ。ルールをつくったりというのは必要だと思うけど・・・」

「こちらが余り疑い深く出ると相手も好意的に対応しようとしていても態度を変えてしまうんじゃないかな。難しいところなんだけど」と私。

 

9月4日、月曜日。

管理部長と顧問税理士は大阪出張。9時から在庫処分チームと打ち合わせ開始。

私の方より、ライナーとレバーブロックの処分、換金をしっかりやってもらいたい。関係者は皆でやる。これがうまく行かないと厳しいことになる。債務超過もありうる。9月、10月の2ヶ月間が勝負と考える。

11時に顧問弁護士のところに報告に赴く。「K商事はどうでした」「賢明な判断と言ってくれました」。弁護士より次のような指示があった。

  • 清算人は代表(社長)と税理士の2人でいい
  • 営業は残務処理のみ。新規はできない
  • 債権者への案内(銀行から手形決済について確約をとっておくことが必要。

その後で以下コメントがあった。

  • 土地は投機でないからそんなに心配していない。税理士の評価額は控えめ。慎重だ。
  • 銀行へは特別清算の可能性、というようなことは言わないほうがいい。当社は信用と裏付けがある。
  • 中間マージンを取る商売は成り立たない。

 

弁護士の奥さんも「良かった」と言ってくださった。

 

(第7話 了)