第5話 自主廃業への微かな光

 

翌日23日、朝。出勤で家の玄関を出る時、今日から厳しい闘いが始まるなと思わず天を仰いで、ため息をつくともなしについた時、家内から「お父さんだったら出来るわよ。頑張って」「そうはいってもなあ」笑顔で送りだされた。土壇場になると女性は強いなぁ・・・。いつもと同じように家内の見送りを受け、手を振り駅へと向かった。

顧問税理士から評価計算書が出来上がったとの連絡を受け、税理士事務所に向かった。税理士からは以下の説明があった。

「債務超過にはならない、1億円は残る。これなら解散(自主廃業)でいける」とのことだった。目の前がパーツと明るくなった。M公認会計士にも顧問弁護士にも純資産評価の計算を顧問税理士にしていることは説明していなかった。顧問弁護士は私の「弁済できそうもない」という報告に基づき任意整理という方針を出した。顧問税理士と顧問弁護士の間の電話での打ち合わせの結果、「解散」という方針を確認し、軌道修正した。これに伴い2,3の実務的打ち合わせ、特に銀行に対する対応を話し合った。また解散ということになれば債権者集会ではなく、臨時株主総会の開催となる。

顧問税理士が作成した計算書を見直し、またその他の項目についても実態に合わせてプラス、マイナスの修正を施した。その結果をもって、25日(金)10時半から顧問弁護士の事務所で方針決定会議を開くこととした。

私がきちんと説明していなかったために一旦は任意整理、という方針が出た。とんだドタバタとなってしまったが、「一度地獄を見た」という思いがそれからの解散業務の辛さを支えてくれたのも事実だ。「あの時見た地獄を考えれば、こんな辛さはどうってことない」。ただ顧問弁護士の先生にはご迷惑をお掛けしてしまった。

解散ということになれば、8月、9月の手形は予定通り決済しなければならない。銀行は融資を渋っており、8月末で1千万円引き出すのが限界だった。8月末の手形決済資金として、私財を2千万円投入した。9月末ではさらに資金繰りが厳しくなることを予想、3千万円の私財の追加投入を覚悟した。

24日午前、仙台支店長を同行し、当社の大手仕入れ先の仙台支店を訪問、当社の取引方針を改めて説明した。仕入れ先の支店長からは、「特約店に対する見方が厳しくなってきている。ミヨシさんも噂が出ている。危ないと。今後特約店が単独でやっていくのは難しい時代になっていると思います。弊社としてはミヨシさんを東北では大きな特約店として考えていますが、与信面の問題もあり、今後は今迄のようにはいかなくなると思います」とのことだった。

午後東京に戻り、顧問税理士の事務所に行く。不動産の評価額を一部修正して最終的に純資産評価額1億22百万円という数字が固まった。この金額を顧問弁護士に報告した。顧問税理士が打ち合わせの後で「良く決断されましたね。この時点で決断する社長は少ない。あと半年遅かったら大変だったでしょう」と言うのを聞きながら、心の中で解散に向けて頑張ろう、自分にそう言い聞かせた。

25日(金)午前10時半から顧問弁護士の事務所で方針確認会議を開いた。その結果以下のことを決めた。

  • 任意清算、つまり解散とする
  • 翌週月曜日メインバンクのA銀行京橋支店へ、阿部、顧問弁護士、顧問税理士の3人で行く。その時解散を伝える
  • その際手形決済の協力をお願いする
  • 臨時株主総会の時期を決める
  • 社員の退職に伴い職安に相談する

以上のことに伴う今後の作業・課題をリストアップした。経理面では大阪支店、仙台支店、本社の順で帳簿、補助簿のチェックに入る。管理部長と顧問税理士が

出張して作業。営業面では現在の商権をどのように次の受け皿にスムースに移していくか。また精算期間中に発生する営業事務への対応などを顧問税理士と打ち合わせる。全体的な行動スケジュールを作成。4日大阪支店、7日仙台支店。

帰宅後、家内に今日の会議の結果を話した。それから実家に電話を入れ、倒産ではなく解散でいけそうだと伝えた。

前途に希望が出てきたせいか、週末の26日、27日は久しぶりで精神的にゆっくりできた。しかし、本当に解散ができるのか、途中で崩れて特別清算に移行することはないだろうか。そんな不安が繰り返し頭をもたげてきた。とにかく初めてのことでもあり、不安が不安を呼ぶ、という状態だった。

さていよいよ月曜日が来た。A銀行京橋支店で落ち合う。顧問弁護士が先に来ていたので、顧問税理士が来るまで、支店前の路上で立ち話。金曜日に決めた方針(任意清算=解散)を確認。言葉の問題だが、念のため。ちょっと遅れて顧問税理士。顧問税理士にも方針を確認後、銀行に入った。金曜日にアポを取った時は「当社の今後の経営計画について報告・説明をしたい」と伝えていた。担当課長、担当者を前に、私が口火を切った。会社を任意清算する旨伝え、理由を説明した。

2人は暫く呆気に取られていた。解散の理由は、業績不振、将来への見通しが全く立たなくなってきたこと、純資産があるうちに銀行、仕入れ先に迷惑をかけないように全資産を売却していきたい。資金繰りが厳しくなっていること、また社員もこの決定を受け入れてくれるはず(日頃から経営内容を公開しているので)とも伝えた。その上で当方からのお願いを述べた。

  • 資金繰りの面倒をみてほしい
  • 資産売却に時間がかかるので、この点ご了解頂きたい。

解散決断の時期については顧問弁護士より、8月25日であったことを担当課長、担当者に伝えた。社長は全個人資産を提供すると言っている、とも。

                            (第5話 了)